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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2967号 判決

主文

被告人水間喜三郎、同杉田亘の本件各上告を棄却する。

原判決中被告人高畠武雄、同斎藤実に関する部分を破棄する。右被告人両名に関する本件を札幌高等裁判所に差戻す。

理由

被告人高畠武雄、同斎藤実弁護人小林盛次の上告趣意第一点について。

原判決の事実摘示と証拠説明を対照して判断すると原判決は被告人高畠等が幌内及び歌志内炭鉱へ列車を運転して往った際機関車に焚く石炭が不足したので山元において、緊急措置としてテンダーに石炭を補給して貰ったのであるが、そのため業務を終って岩見沢機関区に帰ったところ、テンダーになお石炭の残余があったので、これを擅に取り下し、処分した事実を認定すると共に、他方において、当時被告人高畠等はその運転して往った機関車のテンダーに約六〇噸の石炭を積んでいったもので、山元においてはなお三〇噸前後の石炭が残っていたものと推認した上、論旨摘録の如き混和の理論により山元で補給された石炭の所有権は全部運輸省に帰属したものとなし、従って、判示石炭の全部又は一部が被告人の弁解の如く、山元で補給された石炭であると否とを問わず、これを前記の如く、擅に取出し処分した以上、判示の如く運輸省所有の石炭を窃取したことになると認定した趣旨であることがわかる。しかし、我が国に現存する国鉄使用のテンダーの石炭積載量はその最大のもので、約一二噸であり、北海道の炭鉱方面において使用されるものは、遥かにそれ以下のものであることは公知の事実である。従って、原判決が本件機関車のテンダーの石炭積載量及び前記山元における残量をそれぞれ六〇噸及び三〇噸内外であると推認し、これを基礎として論旨摘録の如き混和の理論により山元で補給された石炭の所有権は全部運輸省に帰属したものと判示したことはその根拠において、実験則に反するものと云わなければならない。して見ると前記の如き趣旨から被告人等が判示石炭を窃取したと認定した本件においては、右の違法は事実の確定従って判決の結果に影響なしとは云えないから本点論旨はその理由があり、爾余の点につき判断するまでもなく、原判決は被告人高畠武雄、同斎藤実に対する関係においては破棄を免れない。

被告人水間喜三郎弁護人西村卯の上告趣意について。

しかし被告人が所論の如く一時融通の意思の下に本件犯行を行ったことは原審の認定しないところであるばかりでなく、原判決の証拠説明に徴すると原判決は被告人が岩見沢保線区貯炭場から運輸省所有の判示石炭を被告人等の家庭用に勝手に持って来た事実を認定したものであることが明かであるから、たとえ、被告人において、後日返還する意思で所論の如く一時融通したものであったと仮定しても、窃盗罪の犯意の成立を妨げるものではない。従って論旨は理由がない。

被告人杉田亘弁護人西村卯の上告趣意第一点について。

よって記録を調べて見ると、原判決挙示の各証拠にはそれぞれ論旨摘録の如き記載があり、従って、これを以てしては、被告人杉田亘が判示の如く統制額を超えて売り渡した白塩中に所論掃溜塩が含まれていた事実を認めることができないことは所論のとおりである。従って、原判決はこの点において虚無の証拠を援用した瑕疵がある。しかし、本件において「罪トナルヘキ事実」は被告人が他から入手した白塩一一俵及び同二俵を判示の如く統制額を超えて売り渡した点にあるのであって、該白塩がいわゆる自給塩であったか否かということによって統制額に何ら差異を来さないことは後段説示のとおりであるから右白塩の出所につき原判決に前記の如き瑕疵があっても、これにより判決に影響を及ぼすものとは認め難い。従って論旨は理由がない。

同第二点について。

しかし、いわゆる自給塩とは塩専売法臨時特例(昭和二〇年一二月二九日勅令第七二九号)によって、一般にその製造を許されたものであって、右特例第三条により之を所有し、所持し、費消し又は譲渡することができるのであるが、それは専ら自給用に供せしめる趣旨であるから譲渡に関しては特に「命令ニ定メルトコロニ依リ」との制限が置かれており、塩専売法臨時特例施行規則(前同日大藏省令第一一五号)第三条には自給塩の譲渡はそれを製造したものがその製造した塩に限り譲渡することを得る旨指定されているに止まり、譲渡を受けたものが更にこれを専売することは許されていない。しかも、製造者と雖も、その製造した自給塩を譲渡するにあたっては所轄専売官署において、譲渡先、数量、価格其の他譲渡に関し為すことあるべき必要な指示に従わねばならぬことになっている。従って、自給塩と雖も、譲受人が更にこれを他に専売したり、生産者が所轄専売官署の指示に違反して譲渡することは許されない。従ってかかる場合のため特に統制額が定められていないことは固より所論のとおりである。さればこそ、自給塩を譲受けた者が、更に違法にこれを専売する場合においては(自給塩を製造した者が自ら譲渡する場合は暫く措き)塩専売法及び塩売捌規則の定める販売価格がその統制額となるものと云わなければならない。蓋し、右販売価格は物価統制令第七条物価統制令施行規則第八条により塩売捌人以外の者の為す同種の給付に対する価格等についても亦その統制額とされているのであって、塩の価格統制の見地からすればそれが官塩たると自給塩たるとによって区別すべき理由がないからである。論旨は官塩と自給塩とが法規を異にしていることを理由として、両者の統制額につき別異に解すべき旨主張するけれども独自の見解にすぎない。

さて、本件について見るに、被告人が販売した判示白塩は被告人が自ら製造した自給塩でないことは判文上極めて明かであるから、原判決が昭和二二年九月二二日札幌地方専売局達札幌地方物価事務局告示第一号によって、官塩につき定められた塩小売人の白塩販売価格をもって判示白塩の統制額であるとなし、判示の如く法律を適用し、被告人を物価統制令違反に問擬したことは相当である。

なお、論旨は、前記札幌地方専売局達札幌地方物価事務局告示第一号は所論の如く各塩業会社に通知されたものであって、官報その他公の機関に告示されたものではなく、従って被告人は統制額を知る機会を与えられなかったのであるから、右統制額違反の犯意を欠くものであると主張するけれども、被告人が官塩につき統制額のあることを知っていたことは原審におけるその供述に徴し明かであるから、具体的にその額及びそれが本件自給塩の統制額となる準拠法規を知らなかったとしても、それは単に法の不知に止まるものであって、未だ所論の如く犯意の成立を阻却するものとは云うを得ない。

従って、論旨はいずれも理由がない。

以上のように被告人水間喜三郎、同杉田亘の本件各上告はすべて理由がないから、右両名については旧刑訴第四四六条を、被告人高畠武雄、同斎藤実については同法第四四七条第四四八条の二を各適用して主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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